飛行機になりたかった僕となれなかった僕の幸せ

ここ最近漫画の読む本数が減った。

これに関しても後述の話につながるのだが、そんな減った本数の中でもここ数年でブッ刺さった漫画が3冊ある。

左ききのエレン」

ハイパーインフレーション

「ブルーピリオド」

上記の3作品である。

ハイパーインフレーションは若干他二つと毛色が違うが、読んでて一番刺さったシーンから自分がいま何を感じてるのかが見えてきた。

僕は全てを捧げるようなクリエイターになりたかったのだ。

 

 

 

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左ききのエレン」のワンシーンである。

この柳という男は実の親が亡くなって休んだ先輩がいない間に、その席をポジションとしても実際の空間としても奪い、親が死んだくらいで甘いと吐き捨てるような最低な人間だ。もちろんこの発言に先輩も激昂し「てめぇ、人間かよ!」と言うが、それに対して「ぼく人間ちゃうわ デザイナーや」と返すほど、人間としては間違いなく最低だがデザイナーという仕事に誇りを持った男なのである。

とにかく最低な発言が目立つのだが、めちゃくちゃに人気があるし、実際彼の発言には惹かれるものがある。

それはクリエイターとして限りなく純粋であり、その道を夢見たものが憧れる姿でもあるからだ。

上記のシーンの発言も彼が目的の為には全てを削ぎ落とすことの美しさを語っている。もちろん一般人には彼の道理を理解はできても納得はできない。それでも彼が人気があるのは、この納得できないながらも狂気の中で物作りをする彼にどこか羨ましさを感じるからだ。僕もそうだ。

彼のように全てを捧げて何かを世に残す事ができたらどんなに幸せだろうと思う。

 

 

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続いて「ハイパーインフレーション」のワンシーン。

紙幣作りに命をかけ、あらゆる偽札を葬ってきた「偽札殺し」とその偽札殺しを上回る偽札を作ろうとしているビオラ

お互いが全てを投げ合ってでも、ただ一つだけは誰にも負けたくない、これだけは完成させたいという執念を見せるシーン。

これもまさしく柳と同じである。この姿に笑ってばかりだった「ハイパーインフレーション」の中で唯一泣いたのだ。

 

 

 

 

 

「ブルーピリオド」も美術に捧げる思いが散りばめられている。かつての自分もそこにいたのに、と私は少し寂しくなりながらこの漫画を読んだ。

大学生の時、僕は小説家になりたかった。全ての人の目に入るものを作りたかった。初めての一人暮らし、知り合いのいない土地で、馬鹿騒ぎをする周りの学生を心底馬鹿にして、「お前ら全てが悔しがって過ごした時間を後悔するような作品を書いてやる」と思って創作し続けた。

 

 

 

 

月日が流れて僕は普通に就職して、結婚をし、子供が産まれた。僕は何一つ手放せず、あの頃描いていた未来とは全く違う今を生きている。それが幸せでないと言えば、もちろん嘘になる。妻の笑顔も娘が呼んでくれる声も、全てが愛おしい。自分の人生が間違っていたとは露程も思っていない。

自分に使うお金は減ったから昔みたいに片っ端から漫画を買い漁ることはできないし、自由に遊んだりもできなくなったけど、代わりに手に入れた幸せが両手に溢れてる。

ただ少しだけ、選ばなかった未来が後ろ髪を引く時があるだけだ。

だから自分が選べなかった道を写す漫画に取り憑かれたのかもしれない。