スパイダーバースが名作だった

幼少期、普段単身赴任をしていて家にいない父が帰ってきた週末に、珍しく父の希望で家族で映画館に行った。

観た映画はサム・ライミ版のスパイダーマンだった。ニューヨークの街をスウィングするスパイダーマンに惚れ、ベンおじさんの最期に涙した僕はその後結構重度なアメコミオタになった。

映画では、アイアンマンに心くすぐられたり、ガーディアンオブギャラクシーで泣き笑いしたり、魅力的なマーベル作品にもたくさん触れてきたけど、やっぱりスパイダーマンは特別だった。

 

先日公開された「スパイダーバース 」は、待ちに待った映画だった。

原作アメコミも東映スパイダーマンが登場したということで翻訳版が出る前から日本国内でも話題になったりしていた本作。アニメーション映画というのももちろん驚いたが、原作を読んでいた身としてはマイルズを主役にするという改変にも驚いた。というか、多次元(マルチバース)のスパイダーマン終結するという目玉以外は完璧に別物となった映画だが、とにかくこれが大正解。

ちょっと語ることが多すぎるので、ネタバレ込みで感想を言おうと思う。だから観てない人は観てから読んでほしい。

 

 

まず何と言っても公開前から試写などで話題になっていた映像美。

最近はCGアニメーションって珍しくなくなったし、予告見る感じむしろ他のディズニーとかのCGアニメと比べて少し動きが不自然?なんて思ってあまり過度に期待してなかった部分なのだが、聞いていた以上のものが出てきた、という衝撃。

キャラクターは本当にコミックが動き出したと言った感じで、でもふと背景を見るとビックリするほど実写的。それなのにキャラが浮かないし、場面やキャラによって絵柄まで変わる徹底ぶり。いままでにない映像体験で、アトラクションに乗っているような没入感すらあり、これだけで映画館で観る価値がある。

アクションも驚くほど爽快。もともとスパイダーマンは映像向けのアクションをするキャラではあるが、今回のアニメもいままでの実写映画に引けを取らないどころか、アニメーションだからこそできる無茶の効いたアクションは見ていて面白い。

カメラの視点なんかも実にユニークで、最初の予告動画からあった、ビルから落下するマイルズを逆さに映すカットなんてすごい象徴的で、息を飲むシーンになっている。まさかこの場面自体が物語としても大きな意味を持つシーンだとは思いもしなかった。

 

 

 

ストーリーや主役、ヴィランの改変についてはおそらくアメコミファンも含めて満場一致で大成功だったと言うだろう。

 

原作ではピーターだった主役を近年デビューした2代目スパイダーマンのマイルズにすることで少年の成長物語として万人に受ける形に再編された。

ベテランのピーターは主役にするとなかなか動かしづらそうだったが、主役を導く先輩ポジションとしてはうってつけだ。ピーターの成長物語にするためにまたピーターのオリジンを描くのは冗長だし(というかヒーローなりたてのピーターから始めたらスパイダーバースとしての話の肝が失われる)、だからと言ってファンの基礎知識ありきだった原作バースのように、いままでの時間の地続きでベテランになったピーターの話をするのは、そのいままでを知らない初見の人には不親切すぎる。

マイルズのオリジンはピーターとはまた違って新鮮だったし、より現代の若者の悩みに近い。別次元の情けないピーターの新たなオリジンにもなる話の構成は初見の観客を置き去りにしないながらも既存のファンにも満足できる内容だった。

また、今回登場したスパイディたちのオリジンは簡潔に語りながらも要所を押さえており、アメコミファンを感心させながらも、アメコミに強くない人も各キャラのバックボーンをより知りたくなるものになっている。このオリジン紹介シーンはいわゆる天丼のように何度も同じ流れを見せることで笑いのネタとしても上手く使っているのだが、それを紹介するシーンで彼らのコミックが積み重なっていき、最後に決意したマイルズのコミックが登場するのも実に憎い演出。彼もまた語られるべきヒーローになったのだと、たった一冊のコミックで伝わる。

 

登場するスパイディを限りなく削ったのも英断だった。

原作では紙面いっぱいに無数のスパイディ達がおり、それを確認するのが楽しかったのだが、コミックと違って映画では観ているもののペースで場面は移り変わらない。

原作アメコミでの一番の魅力だった無数のスパイディという部分をミニマムにして、個性ある6人のスパイディのみにしたことでそれぞれキャラが立ち、物語の雑多な感じも無くなった。原作アメコミはたくさんのスパイディが一堂に会するのは絵面として面白かったが、どうしても話がとっちらかってる感じは否めなかった。

話のまとまりをつけながら、マルチバースの設定を活かすには最適な人数だったかもしれない。

 

キャラクターの改変、特にノワールとペニーの二人に関しても最高だった。

二人とも原作では暗い空気が付きまとうようなダークなキャラ、シリアスなオリジンを持っていたが、ノワールは白黒時代のキャラ、ペニーは日本アニメ的な部分をそれぞれブラッシュアップすることによってライトな観客にも好かれるキャラになった。

アメコミ界隈ではウォッチメンの登場以降、大人の鑑賞にも耐えうる内容という部分に比重を強く置くような傾向になり、どうしても重い話になりがちである。バースも御多分に洩れず、原作はどちらかというと暗めでみんな深刻な顔をしており、緩衝剤がスパイダーピッグ程度という有様だった。ノワールに至っては原作ではシャレにならん言動ばかりの過激スパイディで、とても映像化には向かないキャラだった。

話自体はライトに、しかし「誰もがヒーローになりうる」という終始一貫して掲げ続けたテーマが深みを与えている。マーベルではお馴染みのスタンのカメオ出演はそれだけで泣けてしまうのに、彼の言った「スーツがピッタリ合う日が必ず来る」という言葉には今回の作品の一番伝えたい部分だったと感じる。MJの「マスクを被るのは誰でも良かった。それでも彼は、自分がマスクを被った」という話にはヒーローになるのはその勇気であるのだと語っている。またスパイダーマンに共通する「大いなる力には大いなる責任が伴う」というテーマは本作にも色濃く出ている。

 

個人的に一番改変して成功だったと思うのがヴィランをキングピンにした事。

原作バースではインヘリターズというスパイディたちの天敵という種族が敵だったのだが、まだまだ登場して歴史が浅い上に、目的も主食である蜘蛛の眷属=スパイディを狩って食べたいというもので、確かに圧倒的な強さはインパクトがあったが魅力に欠けていたのは否めない。

その点キングピンは古くから登場するヴィランでアメコミファンにとっては馴染み深いし、ヴィランでありながら家族を大事に思い、その家族を取り戻すために多次元を求めたというのは歪んでありながらも共感しうる悪役に昇華した。圧倒的で不気味なヴィランは確かに恐ろしくはあるが、物語を遠く感じる一因にもなっていた。

今回話をミニマムにしたところにキングピンという恐ろしくも身近な敵はベストマッチだった。

また、同じくヴィランプラウラーは原作ファンなら正体を知りながらハラハラしただろうし、逆に全く知らない人も驚くようなナイスな展開になっていた。一緒に観に行った彼女は正体が分かった瞬間、思わず溜息が漏れていたので間違いなく話の流れとして成功していたと言える。豆知識ではあるが、プラウラー(というかプラウラーになる人物)はトムホランド版のスパイダーマンでもすでに登場しており、さらに甥の存在も語っていたので今後MCUでもマイルズの活躍が見れるかもしれない。ただこちらはピーターも若いのでなかなか難しいだろうが。

 

公開前にビジュアルを見て心配していたグウェンだが、ツーブロックの理由もしっかりしていたし、公言されはしなかったがリザードマン=ピーターを自分の手で殺してしまったという設定は同じようでファンとしては嬉しくなる。

原作ではまだ描かれていないグウェンがピーターの死を乗り越えるシーンも描かれたので、僕個人としては大満足。何より最初は難色を示していたグウェンのビジュアルや性格もクールだけど可愛いという絶妙な感じ。スパイダーウーマンとしてのグウェンも力強さの中に女性らしいしなやかさもあって、アクション自体も魅力的。また、パンフレットにも書かれていたが彼女のコスチュームは「ゴースト」のようにぼんやりと浮いているように描かれたとあり、近年変更された名称である「ゴーストスパイダー」も意識した描かれ方となっている。

 

そして最後にサプライズ的に登場したスパイダーマン2099。

本国ではそれなりの知名度を得ているが日本では馴染みが薄く、今回の登場もファンサービス程度なのかと思いきや、笑いに振り切った活躍(?)を見せた事で強い印象に残った。日本での知名度も上がるかなぁと思わせるデビューだった。

 

 

 

今回はアニメ作品だったからか、劇場には子供連れの観客も多かった。

今作はスパイダーマンファンはもちろん大満足の出来だったし、過去のスパイダーマンと地続きながらスパイダーマンをあまり知らない客層をも魅了する完璧な娯楽作品に仕上がった。

老若男女問わず夢中になれるムービーじゃないかな?

惜しむらくは予想以上に公開される劇場数が少なかった事。みんな大好き東映スパイダーマンが次回作に出るかは日本の興行収入にかかっていると言っても過言ではないので是非にもみんなに観てもらいたい作品である。(詳しくは下のURLの記事にて)

 

http://amecomi-info.com/2019/01/03/

 

そして観に行ったら絶対に後悔しない作品だと断言しよう。

今週末の予定は決まったね?

スパイダーバースを観に、映画館へGO!!