そうすべきだから、それが正しいことだからという理由で疑問を持つことなく他人を助ける人こそが本当のスーパーヒーローだ。
スパイダーバースでもエンドロールに引用されたスタン・リーの言葉である。
それであれば「スパイダーマン/偽りの赤」の主人公・ユウは紛れもなくヒーローなのだろう。
現在日本で新たなスパイダーマンの物語が誕生している。
マガポケで連載中の「スパイダーマン/偽りの赤」だ。
アース-616とは全く別の次元のお話で、普通の学生の主人公・ユウが偶然落ちていたスパイダースーツを拾うことから物語は始まる。ユウは最初それが本物のスパイダースーツとは知らず、よくできたコスプレだと思うが、一緒に付いていたウェブシューターの存在で、これは本物のスパイダーマンの物だと知る。スパイダーマン(ピーター)がいなくなった街で彼はスパイダーマンとして街を救う。話の流れとしてはこんな感じ。
僕にとってスパイダーマンとは永遠にピーター・パーカーであり、誰かが取って代わるのはなんか違うなぁと思って連載当初ちょっと難色を示していた。
しかししかし、これが実に良く出来たお話だった! 思わず興奮したので今回こうして記事にしてみようと思ったのだ!
主人公ユウの魅力、ヒーローの資質
ユウは本当にどこにでもいる学生だ。
有名進学校に進んだはいいが勉強についていくことができず、学校を休みがちになってしまい、そんな鬱屈した日々の清涼剤としてボルダリングに熱中する、そんなどこにでもいる青年。
スタンはスパイダーマンの物語を「ヒーローであるはずの学生が読者である自身と同じように悩む等身大の物語」として生み出した。これは後に生まれた傑作、映画版スパイダーバースでも主なテーマとなった。誰もがマスクを被れる、誰もがほんの一つの勇気でヒーローになれるという物語は多くの人を魅了した。
ユウはそういう点ではピーターよりももっと身近な主人公だ。彼に与えられたのはピチピチのスーツとウェブシューターだけ。蜘蛛に噛まれてもいないし、特別な機能のあるスーパースーツを着たわけでもない。
物語の初め、一回だけ記念にとスーツを着ていると実際の火事現場と遭遇してしまう。周りの人に懇願されるがまま、彼は火事現場に突入する。家に残された子供を見つけることはできたが、火の手が回って出口はもうない。誰からも期待されない自分自身を思い出し、もう諦めようとしたその時、胸に抱く少年が呟いた。
「スパイダーマン」
彼は成り行きで何の力も無いのにスパイダーマンであることを望まれた。「大いなる力には大いなる責任が伴う」。彼に力はなかったかもしれない。それでも彼には責任が生まれていた。
ここのシーンで彼が奮い立つシーンは是非読んで欲しい!新たなスパイダーマンの誕生だと思わず拍手したくなる。
その後も彼は消えたピーターの代わりに何の力も持たずに街を救う。めちゃくちゃボロボロだし、みっともないけど、彼が救う必要なんてないはずなのに彼はマスクを被り続けた。
成り行きだったその勇気が本物の勇気になって、何でもない彼をヒーローにした。
ヒーローから青年、そして再びヒーローへ
ユウがスーツを拾ったってことは、ピーターはどうしてるの? これについては物語の序盤ですぐに分かる。
ピーターは地球外生命体「シンビオート」に支配されているのだ。つまりヴェノムになっている。なんとか完全に乗っ取られることは避けているが徐々に自我を失っている状態。
最新話でついにヴェノムにほとんどの自我を乗っ取られてしまい、街で暴れまわってしまうピーター。
謎の怪物と対峙したユウは、その怪物が呟いたある言葉でそれが本来のスパイダーマンであることに気付く。
自分が何者か分からないと話す化け物にユウは自分の借りていたマスクを返してこう言う。
あなたは僕のヒーローです」
そのマスクを通して勇気を貰った何者でもなかったユウが、勇気を振り絞りカメラの前でマスクを外し、マスクを返すこのシーンはとても涙無しじゃ読めなかった。
少年漫画らしい熱さをアメコミにしっかり組み込んでいて、この新しいスパイダーマンの物語が日本で生まれた意味が分かるね。
このシーンで、本当にユウがスパイダーマンになってくれてよかったって思った。
偽りの赤
偽りの赤というタイトルだが、ユウ自身の勇気や正義感は嘘じゃない。
誰もが持ち合わせるほんの少しの勇気を振り絞ったのがユウなのである。彼を通して読者は再びスタンの言葉を思い出すだろう。今の若者のための等身大の物語を通して。
マスクの似合う日は必ず来るのだと、ユウを見て改めて知ることができた。